九 九 (く く) の 歴 史 ─ 『塵 劫 記』 と 江 戸 庶 民 の表紙イラスト

九 九 (く く) の 歴 史 ─ 『塵 劫 記』 と 江 戸 庶 民

小学校 算数 第4学年 古典 A 数 と 計 算数 学 史 目安 25 分

作者
吉田光由 ・ 数学史 編集部(吉田光由 1598–1672)
原作発表
1627 年(寛永4年 (1627))
出典
国立国会図書館デジタルコレクション / 吉田光由『塵劫記』
底本:吉 田 光 由『塵 劫 記』(1627) 冒 頭 の「九 九」 表 を 中 心 と し た 数 学 史 教 材。 『塵 劫 記』 が 江 戸 庶 民 に 「九 九」 を 普 及 さ せ た 過 程 を 学 ぶ。

学習のめあて

  • 「九 九」 の 歴 史 を 知 る
  • 『塵 劫 記』 と 江 戸 庶 民 の 数 学 教 育 を 知 る
  • 「い ん い ち が い ち」 か ら 「く く は ち じ ゅ う い ち」 ま で を 暗 唱 で き る よ う に

本文

九 九 と は 何 か

「に い ち が に、 に に ん が し、 に さ ん が ろ く ─ 」
こ う 唱 え て き た 九 九 (く く)。

これ は、 1 × 1 か ら 9 × 9 ま で の 掛 け 算 の 答 え を、 ぜ ん ぶ 暗 記 す る た め の 表 だ。
全 部 で 81 個 の 答 え を 覚 え る。

小 学 校 2 年 で 学 び 始 め、 4 年 ま で に 「7 × 8 = 56」 「9 × 6 = 54」 と 即 答 で き る よ う に な る。

な ぜ 九 九 を 覚 え る の か

九 九 を 暗 記 し て お く と、 ど ん な 計 算 で も 圧 倒 的 に 速 く な る。

九 九 を 知 ら な い 人九 九 を 知 っ て い る 人
「7 × 8 は… 7 + 7 + 7 + 7 + 7 + 7 + 7 + 7 = 56」「7 × 8 = 56」 (1 秒)
計 算 に 30 秒 か か る計 算 に 1 秒

こ の 「30 倍 の 速 さ」 が、 君 の 一 生 の 計 算 を 楽 に し て く れ る。

江 戸 時 代 ─ 庶 民 に 九 九 が 広 ま っ た 時 代

不 思 議 な こ と に、 江 戸 時 代 以 前 (室 町 時 代 ま で) の 日 本 庶 民 の 多 く は、 九 九 を 知 ら な か っ た。
九 九 は、 主 に 朝 廷 ・ 公 家 ・ 武 士 階 級 の 子 ど も だ け が 学 ぶ も の だ っ た。

こ の 状 況 を 一 変 さ せ た の が、 1627 年 (寛 永 4 年) に 出 版 さ れ た 『塵 劫 記 (じ ん こ う き)』 で あ る。

著 者 は、 京 都 の 和 算 家 吉 田 光 由 (よ し だ み つ よ し、 1598–1672)。
彼 は、 こ う 考 え た:

「庶 民 (商 人 ・ 農 民) も、 計 算 を 楽 に で き れ ば、 生 活 が 豊 か に な る。
だ か ら、 庶 民 向 け の 数 学 教 科 書 を 作 ろ う」 と。

そ し て『塵 劫 記』 の 冒 頭 に、 大 き く 九 九 表 を 載 せ た。
こ の 本 が 江 戸 中 で 大 ヒ ッ ト し、 寺 子 屋 (て ら こ や) の 教 科 書 と し て 全 国 に 広 ま っ た。

寺 子 屋 と 「読 み・書 き・算 盤」

江 戸 時 代 の 庶 民 の 学 校 「寺 子 屋」 で は、 こ の 三 つ が 基 本 教 育 だ っ た:

  1. 読 み ─ 漢 字 と 仮 名 を 読 む 力
  2. 書 き ─ 筆 で 字 を 書 く 力
  3. 算 盤 (そ ろ ば ん) ─ 数 を 計 算 す る 力

そ の「算 盤」 の 第 一 歩 と し て、 子 ど も た ち が 一 番 最 初 に 暗 唱 し た の が、 九 九 だ っ た。

寺 子 屋 で は、 こ ん な 風 景 が 見 ら れ た:

教 室 中 か ら、 元 気 な 子 ど も の 声 が 響 く。
「い ん い ち が い ち、 い ん に が に、 い ん さ ん が さ ん…」
「に い ち が に、 に に ん が し、 に さ ん が ろ く…」
リ ズ ム に 乗 っ て、 楽 し そ う に 唱 え る。 こ の リ ズ ム が、 81 個 の 答 え を 子 ど も の 頭 に 焼 き 付 け る。

こ う し て、 江 戸 後 期 ま で に、 日 本 庶 民 の 計 算 力 は 世 界 で も ト ッ プ ク ラ ス に な っ た。

世 界 史 と 比 べ て

1860 年 代、 ペ リ ー が 浦 賀 に 来 て、 日 本 が 開 国 し た 頃 ─ 西 洋 か ら 来 た 人 々 が 驚 い た の は、 こ う い う こ と だ っ た:

「日 本 の 商 人 は、 算 盤 を 弾 い て、 一 瞬 で 計 算 を 終 え る」
「貧 し い 農 民 の 子 ど も で も、 九 九 を 唱 え ら れ る」
「日 本 の 識 字 率 は、 ヨ ー ロ ッ パ よ り も 高 い」

こ う し た 「庶 民 の 計 算 力・読 書 力」 が、 明 治 維 新 (1868–) の 後 の 急 速 な 近 代 化 を 支 え た と さ れ る。

そ し て そ の 土 台 を 築 い た の が、 1627 年 の『塵 劫 記』 と、 そ こ に 載 っ た 九 九 表 だ っ た の だ。

九 九 を 完 全 に 覚 え る コ ツ

九 九 の 中 で、 子 ど も が 苦 手 と し が ち な の は ─

  • 7 の 段 ─ 7 × 4 = 28、 7 × 6 = 42、 7 × 8 = 56
  • 8 の 段 ─ 8 × 6 = 48、 8 × 7 = 56、 8 × 9 = 72
  • 6 × 8 や 4 × 9 な ど の 「中 間 の 段」

こ う し た 苦 手 な 計 算 を、 リ ズ ム に 乗 せ て 何 度 も 唱 え る こ と で、 自 然 に 体 に 入 る。

江 戸 と 現 代 を つ な い で

今 君 が 教 室 で 唱 え て い る 「い ち い ち が い ち、 い ち に が に…」 ─ こ の リ ズ ム は、 400 年 近 く 前 の 江 戸 の 子 ど も た ち も、 全 く 同 じ よ う に 唱 え て い た。

吉 田 光 由 が 1627 年 に 『塵 劫 記』 で 庶 民 に 広 め た 九 九 が、 そ の ま ま 現 代 の 君 の 算 数 の 時 間 に つ な が っ て い る。

小 さ な 1 × 1 か ら 大 き な 9 × 9 ま で の 81 個 の 答 え ─ そ の 一 つ ひ と つ が、 江 戸 か ら 現 代 ま で の 日 本 の 計 算 文 化 の 結 晶 で あ る。

ぜ ひ、 全 部 完 璧 に 覚 え て、 一 生 の 武 器 に し て ほ し い。

語句の意味

各見出し語をクリックすると、外部辞書で詳しい意味を調べられます。 ※ Wiktionary について

  • 九 九 (く く) K 1 × 1 か ら 9 × 9 ま で の 掛 け 算 の 答 え を 暗 唱 す る 表。 全 81 個 の 計 算 を 暗 記 す る こ と で、 暗 算 が 飛 躍 的 に 速 く な る。 日 本 で は 小 学 校 2 年 で 学 ぶ。
  • 塵 劫 記 (じ ん こ う き) K 吉 田 光 由 が 寛 永 4 年 (1627) に 出 版 し た 日 本 最 初 の 本 格 的 算 術 書。 庶 民 向 け の 計 算 入 門 書 で、 九 九 か ら 鶴 亀 算 ・ 旅 人 算 ・ 油 分 け 算 ま で 様 々 な 内 容 を 含 む。 江 戸 時 代 の 大 ベ ス ト セ ラ ー。 本 サ イ ト sansu5 で 多 数 の 関 連 教 材。
  • 吉 田 光 由 (よ し だ み つ よ し) K 1598–1672。 京 都 生 ま れ。 和 算 家。 京 都 の 商 家 ・ 角 倉 (す み の く ら) 一 族 の 縁 者。 『塵 劫 記』 を 編 ん で 庶 民 に 数 学 を 広 め た。
  • 寺 子 屋 (て ら こ や) K 江 戸 時 代 の 庶 民 の 学 校。 主 に 寺 院 や 商 家 の 一 室 で 開 か れ、 「読 み・書 き・算 盤 (そ ろ ば ん)」 を 教 え た。 全 国 に 約 1 万 5 千 軒 あ っ た と さ れ、 日 本 の 識 字 率 を 世 界 一 高 い 水 準 に し た。
  • 識 字 率 (し き じ り つ) K 文 字 を 読 み 書 き で き る 人 の 割 合。 江 戸 時 代 末 期 (1860 年 代) の 日 本 の 識 字 率 は 男 子 約 50%、 女 子 約 20% と さ れ、 同 時 代 の ヨ ー ロ ッ パ (英 国 男 子 約 30%) を 上 回 っ て い た。
  • 「い ん い ち が い ち」 の リ ズ ム K 九 九 の 暗 唱 は、 リ ズ ム を つ け て 唱 え る こ と で 覚 え や す く す る。「い ん い ち が い ち、 い ん に が に、 い ん さ ん が さ ん」 ─ こ う し た リ ズ ム を 江 戸 の 子 ど も も 唱 え て い た。
  • 算 盤 (そ ろ ば ん) K 中 国 由 来 の 計 算 道 具。 江 戸 時 代 に 日 本 で 改 良 さ れ、 庶 民 の 必 需 品 と な っ た。 寺 子 屋 で は「読 み・書 き・算 盤」 が 基 本 教 育。

考えてみよう

  1. 九 九 の 暗 唱 は、 な ぜ 必 要 な の で し ょ う か。 計 算 機 が あ る 今 も、 暗 唱 す る 意 味 は あ り ま す か?
  2. 『塵 劫 記』 が 江 戸 ベ ス ト セ ラ ー に な っ た こ と か ら、 当 時 の 日 本 庶 民 の 数 学 へ の 関 心 を ど う 評 価 し ま す か?
  3. あ な た は 九 九 を 全 部 言 え ま す か? 7 × 8 = ? を 即 答 で き ま す か?
  4. 「九 九 を 知 ら な か っ た 江 戸 以 前 の 庶 民」 と「九 九 を 知 っ た 江 戸 以 降 の 庶 民」 ─ こ の 違 い は、 日 常 生 活 に ど ん な 影 響 を 与 え た で し ょ う か?

指導要領との対応

このページは、文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)」算数 第4学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。

  • 4年(A) — 整 数 の 乗 法・除 法 ─ 九 九 の 利 用

※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。

指導案 教員向け・授業展開の例

小4 算 数 「整 数 の 乗 法・除 法」 単 元 の 復 習 と 拡 張 教 材。 九 九 を 「便 利 な 暗 唱 道 具」 と し て で は な く、 「文 化 と 歴 史 を 持 つ 知 の 遺 産」 と し て 学 ぶ。 江 戸 時 代 の 寺 子 屋 文 化 と の つ な が り を 体 感 す る。

授業時数
1時限 (45分)
準備
『塵 劫 記』 の 九 九 ペ ー ジ の 写 真 (国 立 国 会 図 書 館)、江 戸 時 代 の 寺 子 屋 の 絵、九 九 練 習 ワ ー ク シ ー ト

指導目標

  • 九 九 を 文 化 史 の 文 脈 で 理 解 す る
  • 『塵 劫 記』 と 江 戸 庶 民 数 学 教 育 を 知 る
  • 自 分 自 身 の 九 九 の 暗 唱 を 強 化 す る

授業の流れ

  1. 5分 全 員 で 九 九 を 唱 和
  2. 15分 江 戸 時 代 の 九 九 と 『塵 劫 記』 を 解 説
  3. 10分 寺 子 屋 の 様 子 を 想 像 し て 議 論
  4. 10分 7 × 8 等 の 苦 手 な 段 の 練 習
  5. 5分 振 り 返 り

発問例・議論のポイント

  • 計 算 機 時 代 に 九 九 暗 唱 は 必 要 か?
  • 寺 子 屋 と 現 代 の 学 校 の 違 い
  • 計 算 が 速 い こ と は 「賢 さ」 か?

発展課題

  • 『塵 劫 記』 の 他 の 問 題 (鶴 亀 算、 旅 人 算、 油 分 け 算 ─ sansu5) を 紹 介
  • 寺 子 屋 を 描 い た 浮 世 絵 を 鑑 賞
  • 自 分 で「九 九 を 早 く 唱 え る 大 会」 を 開 く

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編集部 (本サイト) / 引用 ─ 吉田光由『塵劫記』 (江戸前期 (塵劫記) / 現代)

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出典・ライセンス

  • 原文: 吉田光由 ・ 数学史 編集部「九 九 (く く) の 歴 史 ─ 『塵 劫 記』 と 江 戸 庶 民」(1627年)
  • 入力テキスト: 国立国会図書館デジタルコレクション / 吉田光由『塵劫記』 (底本:吉 田 光 由『塵 劫 記』(1627) 冒 頭 の「九 九」 表 を 中 心 と し た 数 学 史 教 材。 『塵 劫 記』 が 江 戸 庶 民 に 「九 九」 を 普 及 さ せ た 過 程 を 学 ぶ。)
  • 原文の権利: パブリックドメイン
  • 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors