ノ ー ベ ル と ダ イ ナ マ イ ト ─ 賞 に 込 め た 科 学 者 の 願 い
中学校 化学 第1学年 化 学 反 応化 学 史科 学 と 倫 理 目安 25 分
学習のめあて
- ノ ー ベ ル と ダ イ ナ マ イ ト の 化 学 的 仕 組 み を 理 解 す る
- ノ ー ベ ル 賞 創 設 の 経 緯 と 願 い を 知 る
- 「科 学 技 術 と 倫 理」 の 関 係 を 考 え る
本文
ノ ー ベ ル と ダ イ ナ マ イ ト
1. 危 険 す ぎ る 爆 薬
19 世 紀 半 ば、 鉱 山 や ト ン ネ ル の 工 事 で は、 黒 色 火 薬 が 使 わ れ て い た。 し か し、 黒 色 火 薬 は 威 力 が 弱 く、 硬 い 岩 盤 を 砕 く に は 力 不 足 で あ っ た。
1847 年、 イ タ リ ア の 化 学 者 ソ ブ レ ロ が、 は る か に 強 力 な 液 体 爆 薬「ニ ト ロ グ リ セ リ ン」 を 発 見 し た。 し か し、 こ れ に は 致 命 的 な 問 題 が あ っ た。 衝 撃 に 極 め て 敏 感 で、 少 し の 振 動 で も 爆 発 し て し ま う の だ。 運 搬 中 に 爆 発 す る 事 故 が 各 地 で 多 発 し た。
ス ウ ェ ー デ ン の ノ ー ベ ル 家 も、 こ の ニ ト ロ グ リ セ リ ン を 製 造 し て い た が、 1864 年、 ス ト ッ ク ホ ル ム の 工 場 が 大 爆 発。 ア ル フ レ ッ ド・ノ ー ベ ル の 弟 エ ミ ー ル を 含 む 5 人 が 死 亡 し た。
2. 1867 年 ─ ダ イ ナ マ イ ト の 発 明
弟 を 失 っ た ア ル フ レ ッ ド・ノ ー ベ ル (1833-1896) は、 「ニ ト ロ グ リ セ リ ン を 安 全 に 扱 う 方 法」 の 研 究 に 没 頭 し た。
そ し て 1867 年、 つ い に 解 決 策 を 見 つ け た。 危 険 な 液 体 ニ ト ロ グ リ セ リ ン を、 「珪 藻 土 (け い そ う ど)」 ─ 珪 藻 と い う 微 生 物 の 殻 が 堆 積 し て で き た、 ス ポ ン ジ の よ う に 穴 だ ら け の 土 ─ に 染 み 込 ま せ た の だ。
す る と、 液 体 が 安 定 し、 衝 撃 で 簡 単 に は 爆 発 し な く な っ た。 そ れ で い て、 「雷 管 (信 管)」 で 意 図 的 に 起 爆 す れ ば、 強 力 に 爆 発 す る。 安 全 に 運 べ て、 必 要 な と き だ け 爆 発 さ せ ら れ る 固 体 爆 薬 ─ こ れ が「ダ イ ナ マ イ ト」 で あ る。
3. 富 と「死 の 商 人」
ダ イ ナ マ イ ト は、 世 界 を 変 え た。 ト ン ネ ル 工 事、 鉱 山 開 発、 運 河 建 設、 道 路 建 設 ─ 硬 い 岩 盤 を 砕 く 土 木 工 事 が 飛 躍 的 に 進 ん だ。 ス エ ズ 運 河、 ア ル プ ス の ト ン ネ ル、 ア メ リ カ の 大 陸 横 断 鉄 道 ─ 多 く の 大 工 事 が ダ イ ナ マ イ ト で 実 現 し た。
ノ ー ベ ル は 世 界 中 に 爆 薬 工 場 を 持 ち、 巨 万 の 富 を 築 い た。
し か し、 ダ イ ナ マ イ ト は 同 時 に、 戦 争 の 兵 器 と し て も 使 わ れ た。 ノ ー ベ ル は「死 の 商 人」 と も 陰 で 呼 ば れ る よ う に な っ た。
4. 自 分 の 死 亡 記 事 を 読 む
1888 年、 一 つ の 出 来 事 が ノ ー ベ ル を 大 き く 揺 さ ぶ っ た。
兄 リ ュ ド ビ ッ ヒ が 死 去 し た 際、 フ ラ ン ス の あ る 新 聞 が、 弟 ア ル フ レ ッ ド と 取 り 違 え て、 こ う 報 じ た の だ。
「死 の 商 人、 死 す。 ダ イ ナ マ イ ト で 人 を 殺 す 方 法 を 見 つ け て 財 を 成 し た ア ル フ レ ッ ド・ノ ー ベ ル 氏 が、 昨 日 死 去 し た。」
ま だ 生 き て い る 自 分 の「死 亡 記 事」 を 読 ん だ ノ ー ベ ル は、 衝 撃 を 受 け た。
「自 分 は、 死 ん だ あ と、 こ う 記 憶 さ れ る の か。 ─『死 の 商 人』 と し て。」
(こ の 逸 話 に は 諸 説 あ る が、 ノ ー ベ ル 賞 創 設 の 動 機 の 一 つ と し て 広 く 語 ら れ て い る。)
5. 1895 年 ─ 遺 言
1895 年、 ノ ー ベ ル は 遺 言 を 書 い た。 そ こ に は、 こ う 記 さ れ て い た。
「私 の 全 財 産 を も と に 基 金 を つ く り、 そ の 利 子 を、 前 年 に 人 類 に 最 大 の 貢 献 を し た 人 々 に、 賞 と し て 分 配 す る こ と。 国 籍 は 一 切 問 わ な い。 部 門 は、 物 理 学・化 学・生 理 学 医 学・文 学・そ し て 平 和、 の 五 つ と す る。」
全 財 産 ─ 当 時 の 約 3,100 万 ス ウ ェ ー デ ン ク ロ ー ネ (現 在 の 価 値 で 数 百 億 円) ─ を、 人 類 の 進 歩 を 称 え る 賞 に 託 し た の で あ る。
1896 年、 ノ ー ベ ル は イ タ リ ア で 没 し た。 享 年 63 歳。 そ し て 1901 年、 第 一 回 ノ ー ベ ル 賞 が 授 与 さ れ た。
6. な ぜ「平 和 賞」 が あ る の か
ノ ー ベ ル 賞 の 五 部 門 に「平 和」 が 含 ま れ て い る の は、 象 徴 的 で あ る。
自 ら の 発 明 (爆 薬) が 戦 争 に 使 わ れ た こ と へ の、 複 雑 な 思 い。 「科 学 技 術 は、 人 類 を 豊 か に も す る が、 殺 し も す る」 と い う 両 義 性 へ の、 ノ ー ベ ル 自 身 の 自 覚。 平 和 賞 は、 そ の 償 い と 願 い の 表 れ と も 解 釈 さ れ る。
ダ イ ナ マ イ ト を 発 明 し た 化 学 者 が、 自 ら の 富 を、 物 理 学・化 学・医 学 と 並 ん で「平 和」 を 称 え る 賞 に 託 し た。 こ こ に、 科 学 と 倫 理 の 永 遠 の 問 い が 込 め ら れ て い る。
7. 化 学 と し て の 爆 発
最 後 に、 ダ イ ナ マ イ ト の 化 学 を 確 認 し て お こ う。
爆 発 と は、 化 学 反 応 が 極 め て 短 時 間 で 進 み、 大 量 の 気 体 と 熱 を 一 気 に 放 出 す る 現 象 で あ る。 ニ ト ロ グ リ セ リ ン は 分 解 し て、 二 酸 化 炭 素・水 蒸 気・窒 素・酸 素 と な り、 体 積 が 一 瞬 で 数 千 倍 に 膨 張 す る。 こ の 急 激 な 膨 張 が、 岩 盤 を 砕 く 力 と な る。
中 学 理 科 で 学 ぶ「発 熱 反 応」 の、 最 も 極 端 な 例 で あ る。 同 じ 化 学 反 応 が、 工 事 に も 戦 争 に も 使 わ れ る。 ど う 使 う か は、 化 学 で は な く、 人 間 が 決 め る こ と で あ る。
ノ ー ベ ル の 物 語 は、 そ の こ と を 私 た ち に 問 い か け 続 け て い る。
語句の意味
各見出し語をクリックすると、外部辞書で詳しい意味を調べられます。 ※ Wiktionary について
- ア ル フ レ ッ ド・ノ ー ベ ル (Alfred Nobel) K 1833-1896。 ス ウ ェ ー デ ン・ス ト ッ ク ホ ル ム 出 身 の 化 学 者・発 明 家・実 業 家。 父 も 爆 薬 技 術 者。 各 国 で 化 学 を 学 び、 1867 年 ダ イ ナ マ イ ト を 発 明・特 許 取 得。 世 界 中 に 爆 薬 工 場 を 持 ち、 巨 万 の 富 を 築 い た。 生 涯 で 355 の 特 許 を 取 得。 1896 年 イ タ リ ア・サ ン レ モ で 没。 享 年 63 歳。 遺 言 で 全 財 産 を ノ ー ベ ル 賞 創 設 に 充 て た。
- ニ ト ロ グ リ セ リ ン (Nitroglycerin) K 1847 年 イ タ リ ア の ソ ブ レ ロ が 発 見 し た 強 力 な 液 体 爆 薬。 化 学 式 C₃H₅N₃O₉。 衝 撃 に 極 め て 敏 感 で、 少 し の 振 動 で も 爆 発 し て し ま う た め、 運 搬・取 り 扱 い が 非 常 に 危 険 で あ っ た。 ノ ー ベ ル の 工 場 で も 爆 発 事 故 が 多 発 し、 1864 年 に は 弟 エ ミ ー ル を 含 む 5 人 が 事 故 死 し た。
- ダ イ ナ マ イ ト (Dynamite) K 1867 年 ノ ー ベ ル が 発 明 し た 爆 薬。 危 険 な 液 体 ニ ト ロ グ リ セ リ ン を、 珪 藻 土 (け い そ う ど、 = 珪 藻 の 殻 が 堆 積 し た 多 孔 質 の 土) に 染 み 込 ま せ る こ と で、 衝 撃 に 強 く 安 全 に 運 べ る 固 体 爆 薬 と し た。 信 管 (雷 管) で 意 図 的 に 爆 発 さ せ る こ と が で き る。 ト ン ネ ル 工 事・鉱 山・運 河 建 設 等 の 土 木 工 事 に 革 命 を も た ら し、 同 時 に 戦 争 の 兵 器 に も 使 わ れ た。
- 「死 の 商 人」 と 誤 報 事 件 K 1888 年、 ノ ー ベ ル の 兄 リ ュ ド ビ ッ ヒ が 死 去 し た 際、 フ ラ ン ス の あ る 新 聞 が 弟 ア ル フ レ ッ ド と 取 り 違 え、 「死 の 商 人、 死 す (Le marchand de la mort est mort)」 と 誤 報 し た。 「ダ イ ナ マ イ ト で 人 を 殺 す 方 法 を 見 つ け て 財 を 成 し た ア ル フ レ ッ ド・ノ ー ベ ル 氏 が 昨 日 死 去」 と。 生 き て い る 自 分 の「死 亡 記 事」 を 読 ん だ ノ ー ベ ル は、 「自 分 は こ う 記 憶 さ れ る の か」 と 衝 撃 を 受 け、 こ れ が ノ ー ベ ル 賞 創 設 の 動 機 の 一 つ に な っ た と 言 わ れ る (諸 説 あ り)。
- ノ ー ベ ル 賞 (Nobel Prize) K ノ ー ベ ル が 1895 年 の 遺 言 で 創 設 を 指 示 し た 賞。 全 財 産 (当 時 約 3,100 万 ス ウ ェ ー デ ン ク ロ ー ネ) を 基 金 と し、 そ の 利 子 で「前 年 に 人 類 に 最 大 の 貢 献 を し た 人 々」 に 賞 を 与 え る と し た。 物 理 学・化 学・生 理 学 医 学・文 学・平 和 の 5 部 門 (後 に 経 済 学 が 追 加)。 1901 年 第 一 回 授 賞。 国 籍 を 問 わ ず 授 与 さ れ る 国 際 賞。
- ノ ー ベ ル 平 和 賞 の 意 味 K ノ ー ベ ル が 5 部 門 の 一 つ に「平 和」 を 入 れ た こ と は、 自 ら の 発 明 (爆 薬) が 戦 争 に 使 わ れ た こ と へ の 複 雑 な 思 い の 表 れ と 解 釈 さ れ る。 ノ ー ベ ル 自 身 は「ダ イ ナ マ イ ト は あ ま り に 恐 ろ し い の で、 か え っ て 戦 争 を 抑 止 す る だ ろ う」 と 考 え て い た 時 期 も あ っ た が、 現 実 は そ う で は な か っ た。 平 和 賞 は、 科 学 技 術 の 負 の 側 面 へ の 償 い と も 言 え る。
- 化 学 反 応 と エ ネ ル ギ ー K 爆 発 と は、 化 学 反 応 が 極 め て 短 時 間 で 進 み、 大 量 の 気 体 と 熱 を 一 気 に 放 出 す る 現 象。 ニ ト ロ グ リ セ リ ン は 分 解 し て 二 酸 化 炭 素・水 蒸 気・窒 素・酸 素 と な り、 体 積 が 一 瞬 で 数 千 倍 に 膨 張 す る。 こ の「化 学 反 応 に よ る エ ネ ル ギ ー の 急 激 な 放 出」 は、 中 学 理 科 で 学 ぶ「発 熱 反 応」 の 極 端 な 例 で あ る。
考えてみよう
- ノ ー ベ ル が 危 険 な ニ ト ロ グ リ セ リ ン を「珪 藻 土 に 染 み 込 ま せ る」 こ と で 安 全 な ダ イ ナ マ イ ト に し た 工 夫 を、 化 学 的・実 用 的 な 視 点 か ら 考 え て み ま し ょ う。
- 「自 分 の 死 亡 記 事 (死 の 商 人) を 読 ん だ」 と い う 逸 話 か ら、 ノ ー ベ ル が ノ ー ベ ル 賞 創 設 に 込 め た 思 い を 想 像 し て み ま し ょ う。
- ダ イ ナ マ イ ト は「土 木 工 事 の 革 命」 と「戦 争 の 兵 器」 の 両 面 を 持 ち ま し た。 科 学 技 術 の「両 義 性 (良 い 使 い 方 と 悪 い 使 い 方)」 に つ い て、 自 分 の 言 葉 で 述 べ て み ま し ょ う。
指導要領との対応
このページは、文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)」化学 第1学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。
- 中学理科第1分野 — 化 学 変 化 と エ ネ ル ギ ー ・ 化 学 と 人 間 生 活
- 中学道徳 — 科 学 技 術 と 人 間 / よ り よ く 生 き る
※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。
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出典・ライセンス
- 原文: 編集部 (Alfred Nobel の生涯に基づく)「ノ ー ベ ル と ダ イ ナ マ イ ト ─ 賞 に 込 め た 科 学 者 の 願 い」(1867年)
- 入力テキスト: 編集部による教材化 (底本:ス ウ ェ ー デ ン の 化 学 者・発 明 家 ア ル フ レ ッ ド・ノ ー ベ ル (Alfred Nobel, 1833-1896) が 1867 年 に 発 明 し た 安 全 な 爆 薬「ダ イ ナ マ イ ト」 と、 そ の 莫 大 な 富 を も と に 遺 言 で 創 設 さ れ た「ノ ー ベ ル 賞」 (1901 年 第 一 回) の 物 語。 「死 の 商 人」 と 呼 ば れ た 科 学 者 が、 自 ら の 富 を 人 類 の 進 歩 を 称 え る 賞 に 託 し た 経 緯 を、 中 学 化 学「化 学 反 応 と エ ネ ル ギ ー」 の 単 元 で 学 ぶ。)
- 原文の権利: パブリックドメイン
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