平 方 根 の 歴 史 ─ √2 を 発 見 し た 古 代 ギ リ シ ア
中学校 数学 第3学年 古典 A 数 と 式数 学 史 目安 25 分
学習のめあて
- 平 方 根 の 概 念 を 理 解 す る
- 「無 理 数」 の 発 見 (古 代 ギ リ シ ア) を 知 る
- √2 と い う 数 の 不 思 議 さ を 体 感 す る
本文
1 辺 1 の 正 方 形 の 対 角 線
紙 に 1 辺 1 cm の 正 方 形 を 描 い て み よ う。
そ し て、 対 角 線 (向 か い 合 う 頂 点 を 結 ぶ 線) の 長 さ を 定 規 で 測 っ て み よ う。
だ い た い 1.4 cm く ら い に な る は ず だ。
ピ タ ゴ ラ ス の 定 理 (本 サ イ ト chugakusugaku2) を 使 う と:
対 角 線² = 1² + 1² = 2
対 角 線 = √2 (ル ー ト 2)
で は、 √2 と は ど ん な 数 か?
√2 の 小 数 展 開
電 卓 で 計 算 し て み る と:
√2 = 1.41421356237309504880168872420969…
こ の 小 数 は ─ 永 遠 に 続 き、 し か も 循 環 し な い。
「0.333…」 (= 1/3) の よ う に 「3 が 繰 り 返 す」 こ と も な い。
ま っ た く 規 則 性 が な い 形 で、 桁 が 続 く。
こ う し た 数 を「無 理 数」 と 呼 ぶ。
「無 理」 と は「分 数 で 表 せ な い」 と い う 意 で あ る (英 語 の irrational ─「比 で 表 せ な い」 の 訳)。
古 代 ギ リ シ ア で の 衝 撃
紀 元 前 6 世 紀、 古 代 ギ リ シ ア の ピ タ ゴ ラ ス 学 派 は、 こ う 信 じ て い た:
「万 物 は 数 で あ る」
こ こ で 言 う 「数」 と は、 整 数 (1, 2, 3…) と 整 数 の 比 (1/2、 3/7…) ─ つ ま り「有 理 数」 だ け を 指 し て い た。
彼 ら に と っ て、 す べ て の 量 は「整 数 の 比」 で 表 せ る は ず だ っ た。
だ か ら こ そ、 ピ タ ゴ ラ ス の 定 理 で 「1 辺 1 の 正 方 形 の 対 角 線 = √2」 と い う 計 算 結 果 が 出 た と き、 彼 ら は「こ の √2 を 何 ら か の 分 数 で 表 そ う」 と し た。
だ が、 ピ タ ゴ ラ ス の 弟 子 ヒ ッ パ ソ ス (Hippasus, 紀 元 前 5 世 紀) が ─ √2 は 絶 対 に 分 数 で 表 せ な い こ と を、 厳 密 に 証 明 し て し ま っ た。
ヒ ッ パ ソ ス の 証 明 (背 理 法)
ヒ ッ パ ソ ス の 証 明 は、 数 学 史 上 最 古 の 「背 理 法」(は い り ほ う) の 一 つ で あ る。
証 明 の あ ら す じ:
- 仮 に、 √2 が 分 数 で 表 せ る と し よ う。 √2 = p/q (p と q は 整 数、 既 約 分 数)
- 両 辺 を 二 乗 す る と: 2 = p²/q²、 つ ま り 2q² = p²
- こ れ よ り p² は 偶 数。 ゆ え に p も 偶 数 (奇 数 の 二 乗 は 奇 数 だ か ら)。 p = 2k と お く。
- す る と 2q² = 4k²、 つ ま り q² = 2k²。 同 様 に q も 偶 数。
- す る と p も q も 偶 数。 だ が p/q は 既 約 分 数 (約 分 で き な い 分 数) と し た。 矛 盾!
- ゆ え に、 「√2 が 分 数 で 表 せ る」 と い う 仮 定 が 間 違 い だ っ た。 → √2 は 分 数 で 表 せ な い 「無 理 数」。
こ の 「仮 定 が 矛 盾 を 生 む か ら、 仮 定 は 間 違 い」 と い う 論 法 を、 数 学 で「背 理 法」 と 呼 ぶ。
ヒ ッ パ ソ ス は、 こ の 美 し い 論 法 で、 「万 物 は 数 (有 理 数) で あ る」 と い う ピ タ ゴ ラ ス 学 派 の 世 界 観 を 覆 し た。
悲 劇 の 伝 説
ピ タ ゴ ラ ス 学 派 に と っ て、 「無 理 数 の 存 在」 は 絶 対 に 公 表 し て は な ら な い 秘 密 だ っ た。
そ れ を 公 に す れ ば、 彼 ら の 信 念 が 崩 壊 し て し ま う。
伝 説 に よ れ ば ─ ヒ ッ パ ソ ス は こ の 秘 密 を 外 部 に 漏 ら し た た め、 怒 っ た 学 派 の メ ン バ ー に 海 に 突 き 落 と さ れ て 殺 さ れ た と さ え 伝 え ら れ る (信 憑 性 は 不 明)。
真 偽 は と も か く、 こ の 伝 説 は、 「新 し い 数 学 的 真 理 が 既 存 の 世 界 観 を 揺 さ ぶ る 衝 撃」 を 物 語 っ て い る。
「数」 の 概 念 の 拡 張 史
無 理 数 の 発 見 か ら、 「数 」 の 概 念 は 何 度 も 拡 張 さ れ て き た:
- 自 然 数 (1, 2, 3…) ─ 古 代 か ら
- 分 数 (1/2、 3/7…) ─ 古 代 か ら
- 0 (ゼ ロ) ─ イ ン ド で 5 世 紀 頃 発 見
- 負 の 数 (-1、 -3…) ─ 中 国・イ ン ド で 古 代、 ヨ ー ロ ッ パ で 15 世 紀 頃 受 容
- 無 理 数 (√2、 π…) ─ 古 代 ギ リ シ ア で 発 見、 衝 撃
- 虚 数 (√-1 = i…) ─ 16 世 紀 イ タ リ ア で 発 見
- 複 素 数 ─ 18 世 紀 オ イ ラ ー ・ ガ ウ ス が 体 系 化
こ れ ら の 拡 張 が、 そ れ ぞ れ の 時 代 で「不 自 然 だ、 認 め ら れ な い」 と 抵 抗 さ れ な が ら、 や が て 数 学 の 必 須 部 分 と な っ た。
江 戸 日 本 の 平 方 根
江 戸 の 関 孝 和 (本 サ イ ト chugakusugaku1) も、 平 方 根 の 計 算 法 を 独 自 に 発 達 さ せ た。
関 は 鋭 い 計 算 法 で、 √2、 √3、 √5 を 小 数 点 以 下 何 桁 ま で も 正 確 に 求 め た。
鎖 国 の 日 本 で、 ヨ ー ロ ッ パ と 同 じ 数 学 が 並 行 に 発 達 し た。
身 の 回 り の √2
√2 ≈ 1.41421… は、 君 の 身 の 回 り に も 隠 れ て い る:
- A4 用 紙 の 縦・横 の 比 ─ 1 : √2 (こ れ で 半 分 に 折 っ て も 同 じ 比 に な る)
- 正 方 形 の 対 角 線 と 辺 の 比 ─ √2 : 1
- 音 楽 の 12 音 律 の 計 算 ─ 12√2 を 使 う (1 オ ク タ ー ブ を 12 等 分)
2500 年 前 に ヒ ッ パ ソ ス が 命 を 賭 け て 発 見 し た「無 理 数 √2」 が、 今 の 君 の 周 り で、 静 か に 働 い て い る。
「数」 と は 何 か ─ こ の 問 い は、 古 代 か ら 続 く、 数 学 の 一 番 深 い 問 い で あ る。
語句の意味
各見出し語をクリックすると、外部辞書で詳しい意味を調べられます。 ※ Wiktionary について
- 平 方 根 (へ い ほ う こ ん) K 2 乗 し た ら そ の 数 に な る 数。 「9 の 平 方 根」 は 3 と -3 (3² = 9、 (-3)² = 9)。「2 の 平 方 根」 は √2 と -√2 (√2 ≈ 1.41421356…)。
- 無 理 数 (む り す う) K 「分 数 で 表 せ な い 数」「小 数 で 無 限 に 続 き、 か つ 循 環 し な い 数」。 √2、 π (円 周 率)、 e (ネ イ ピ ア 数) な ど。 古 代 ギ リ シ ア で 発 見 さ れ た と き、 数 学 界 を 揺 る が す 衝 撃 だ っ た。
- 有 理 数 (ゆ う り す う) K 「分 数 で 表 せ る 数」。 整 数 (3 = 3/1)、 分 数 (1/2、 7/3)、 有 限 小 数 (0.5 = 1/2)、 循 環 小 数 (0.333… = 1/3) な ど。 こ れ ら は 全 て「比 (rational)」 で 表 せ る。
- ピ タ ゴ ラ ス 学 派 (Pythagoreans) K 紀 元 前 6 世 紀、 ピ タ ゴ ラ ス が 設 立 し た 哲 学・数 学 集 団。「万 物 は 数 で あ る」 と 信 じ て い た。 そ の 「数」 と は、 整 数 や 整 数 の 比 (有 理 数) の こ と。 だ か ら、 無 理 数 √2 の 発 見 は、 彼 ら の 世 界 観 を 根 底 か ら 覆 し た。
- 「√2 の 発 見」 の 衝 撃 K ピ タ ゴ ラ ス 学 派 の 弟 子 ヒ ッ パ ソ ス が、 1 辺 1 の 正 方 形 の 対 角 線 = √2 が「分 数 で 表 せ な い」 こ と を 証 明 し た 時、 学 派 内 で 大 混 乱 に な っ た と 伝 え ら れ る。 一 説 で は、 こ の 秘 密 を 外 部 に 漏 ら し た ヒ ッ パ ソ ス が、 海 に 突 き 落 と さ れ て 殺 さ れ た と さ え 言 わ れ る (伝 説)。
- 関 孝 和 と 平 方 根 K 江 戸 の 数 学 者 関 孝 和 (本 サ イ ト chugakusugaku1) も、 平 方 根 を 高 精 度 で 計 算 し た。 ヨ ー ロ ッ パ と 接 触 せ ず に、 独 立 に 平 方 根 の 計 算 法 を 発 達 さ せ た。
考えてみよう
- 1 辺 が 1 の 正 方 形 を 描 い て、 対 角 線 の 長 さ を 測 っ て み ま し ょ う。 ど ん な 数 に な り ま す か?
- √2 が「分 数 で 表 せ な い 数」 で あ る こ と を、 ピ タ ゴ ラ ス 学 派 は な ぜ 大 衝 撃 と し て 受 け 止 め た の で し ょ う か?
- 「3 / 7」 と「√2」、 ど ち ら が「奇 妙 な 数」 だ と 感 じ ま す か? な ぜ?
- あ な た の 身 の 回 り で√2 が 関 係 す る 場 面 は あ り ま す か?
指導要領との対応
このページは、文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)」数学 第3学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。
- 中3数学(A) — 平 方 根 ─ 無 理 数 の 概 念 と 計 算
※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。
指導案 教員向け・授業展開の例
中3 数 学 「平 方 根」 単 元 の 概 念 導 入 教 材。 「無 理 数 の 発 見」 と い う 数 学 史 の 大 事 件 を 通 し て、 平 方 根 の 不 思 議 さ を 体 感。 古 代 ギ リ シ ア と 江 戸 日 本 の 二 つ の 角 度 か ら 見 る。
指導目標
- 平 方 根 と 無 理 数 を 理 解 す る
- 「数 学 の 歴 史 で 数 の 概 念 が 拡 張 さ れ て き た こ と」 を 知 る
- √2 の 計 算 と 性 質 を 把 握 す る
授業の流れ
- 5分 1 辺 1 の 正 方 形 を 描 き、 対 角 線 を 測 る
- 15分 平 方 根 の 概 念 と √2 の 計 算
- 15分 古 代 ギ リ シ ア の 「無 理 数 発 見 の 衝 撃」 を 紹 介
- 10分 関 孝 和 (江 戸) の 平 方 根 計 算 法 を 紹 介
発問例・議論のポイント
- 「数 と は 何 か」 と い う 問 い
- 新 し い 数 の 概 念 を 受 け 入 れ る 難 し さ
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出典・ライセンス
- 原文: 数学史 編集部「平 方 根 の 歴 史 ─ √2 を 発 見 し た 古 代 ギ リ シ ア」(-500年)
- 入力テキスト: 数学史 各種 文献 (底本:古 代 ギ リ シ ア の ピ タ ゴ ラ ス 学 派 で 発 見 さ れ た 「無 理 数 √2」 の 衝 撃 と、 江 戸 期 の 関 孝 和 ら に よ る 平 方 根 計 算 の 歴 史。)
- 原文の権利: パブリックドメイン
- 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors