関 孝 和 と 点 竄 術 ─ 日 本 の 代 数 学
中学校 数学 第1学年 古典 A 数 と 式数 学 史和 算 文 化 目安 25 分
学習のめあて
- 関 孝 和 の 「点 竄 術」 を 知 る
- 日 本 独 自 の 代 数 学 が ヨ ー ロ ッ パ と 同 等 の 水 準 に あ っ た こ と を 知 る
- 現 代 の 文 字 式 と の 連 続 性 を 把 握 す る
本文
関 孝 和 ─ 日 本 数 学 史 最 大 の 天 才
関 孝 和 (せ き た か か ず、 1642 頃 –1708) は、 日 本 数 学 史 上 最 大 の 天 才 と 呼 ば れ る。
彼 の 主 な 業 績:
- 点 竄 術 (て ん ざ ん じ ゅ つ) ─ 文 字 を 使 う 代 数 体 系 の 確 立
- 行 列 式 ─ ヨ ー ロ ッ パ の ラ イ プ ニ ッ ツ (1693) よ り 約 10 年 早 く 発 見
- 円 周 率 ─ 小 数 点 以 下 11 桁 ま で 正 確 に 計 算 (本 サ イ ト sansu5/enseki-ritsu)
- 方 程 式 の 解 法 ─ 高 次 方 程 式 の 解 法 を 体 系 化
- 級 数 論 ─ 無 限 級 数 を 用 い た 高 度 な 計 算
こ れ ら す べ て を、 関 孝 和 は ヨ ー ロ ッ パ と 一 切 接 触 せ ず に 独 自 に 達 成 し た。
鎖 国 の 日 本 で、 中 国 の 数 学 を 出 発 点 と し て、 ヨ ー ロ ッ パ に 匹 敵 す る 数 学 を 築 い た の で あ る。
「点 竄 術」 と は 何 か
「点 竄 術 (て ん ざ ん じ ゅ つ)」 と い う 言 葉 を、 分 解 し て 見 て み よ う。
- 点 ─ 紙 の 上 に 書 か れ た 点 (= 文 字 ・ 数 ・ 記 号)
- 竄 (ざ ん) ─ 移 す、 並 び 替 え る
- 術 (じ ゅ つ) ─ 方 法 ・ 技 術
合 わ せ て、 「紙 上 の 文 字 を 操 作 す る 方 法」 ─ つ ま り 「文 字 式 を 使 っ た 計 算 法」 の 意 で あ る。
こ れ は、 中 1 で 君 が 今 学 ん で い る 「文 字 式」 と、 本 質 的 に 同 じ も の だ。
江 戸 の 文 字 式 ─ 漢 字 と 算 木 で
た だ、 関 孝 和 の 時 代 の 「文 字」 は、 ア ル フ ァ ベ ッ ト (x、 y) で は な か っ た。
彼 ら が 使 っ た の は ─
| 現 代 の 表 記 | 関 孝 和 時 代 の 表 記 |
|---|---|
| x (未 知 数 1) | 「天 元 (て ん げ ん)」 と い う 漢 字 |
| y (未 知 数 2) | 「人 元 (じ ん げ ん)」 と い う 漢 字 |
| z (未 知 数 3) | 「地 元 (ち げ ん)」 と い う 漢 字 |
| + (足 す) | 言 葉 で 「加 え る」 |
| = (等 し い) | 「等 す」 「等 し」 |
さ ら に、 数 字 そ の も の も、 ア ラ ビ ア 数 字 (1、 2、 3) で は な く、 算 木 (さ ん ぎ ─ 短 い 木 の 棒) を 並 べ た 形 で 紙 に 描 か れ た。
表 現 方 法 は 全 く 違 う が ─ 計 算 の 仕 組 み は、 現 代 の 文 字 式 と ま っ た く 同 じ で あ る。
ヴ ィ エ ー タ と 関 孝 和 ─ 並 行 す る 二 つ の 数 学
時 系 列 で 並 べ て み よ う:
- 1591 年 ─ ヴ ィ エ ー タ『解 析 学 入 門』(フ ラ ン ス) ─ 文 字 式 革 命
- 1642 年 頃 ─ 関 孝 和 生 ま れ る (日 本)
- 1674 年 ─ 関 孝 和『発 微 算 法』(日 本) ─ 点 竄 術 の 体 系 化
- 1683 年 頃 ─ 関 孝 和、 行 列 式 を 発 見
- 1693 年 ─ ラ イ プ ニ ッ ツ、 行 列 式 を 発 表 (ド イ ツ)
- 1708 年 ─ 関 孝 和 没 す
ヴ ィ エ ー タ (1591) か ら 関 孝 和 の 仕 事 (1674) ま で、 約 83 年。
そ し て、 関 孝 和 の 行 列 式 (1683 頃) と ラ イ プ ニ ッ ツ の 行 列 式 (1693) ─ た っ た 10 年 違 い。
鎖 国 の 日 本 と ヨ ー ロ ッ パ が、 ほ ぼ 同 じ 時 期 に 同 じ 数 学 を 独 立 に 発 達 さ せ た ─ こ れ は 数 学 史 上 で 最 も 美 し い 並 行 で あ る。
「数 学 は 世 界 共 通 の 言 葉」
こ の 並 行 発 達 は、 数 学 に 関 す る 大 切 な 真 理 を 教 え て く れ る:
数 学 は、 文 化・言 語・時 代 を 超 え て、 同 じ 真 理 を 指 し 示 す。
中 1 で 君 が 学 ぶ 「文 字 式」 は、 ヨ ー ロ ッ パ で は ヴ ィ エ ー タ が 1591 年 に 体 系 化 し、 日 本 で は 関 孝 和 が 1674 年 に 確 立 し た。
場 所 も 時 代 も 違 う 二 人 が、 全 く 同 じ 「文 字 を 使 う」 と い う 発 想 に 到 達 し た。
だ か ら、 君 が 学 ぶ こ の「文 字 式」 は ─
ア フ リ カ の 数 学 者 も、 南 米 の 数 学 者 も、 ヨ ー ロ ッ パ の 数 学 者 も、 同 じ よ う に 理 解 す る、 世 界 で 唯 一 の 共 通 言 語 な の だ。
関 孝 和 の 時 代 の 算 額 文 化
関 孝 和 の 時 代 (江 戸 前 期) は、 数 学 が 庶 民 に も 楽 し ま れ る 時 代 だ っ た。
本 サ イ ト sansu5/sangaku-bunka で 既 習 の 「算 額 (さ ん が く)」 文 化 が、 ま さ に そ の 時 代 に 始 ま っ て い る。
関 孝 和 の 弟 子 た ち ─ 建 部 賢 弘 (た け べ か た ひ ろ、1664–1739) ら ─ も、 神 社 に 算 額 を 奉 納 し、 庶 民 と 数 学 を 楽 し ん で い た。
こ の 「文 字 式 を 楽 し む 文 化」 ─ そ れ が、 ヨ ー ロ ッ パ と 並 ぶ 高 度 な 数 学 を、 江 戸 日 本 に 根 付 か せ た 土 壌 で あ っ た。
君 へ の メ ッ セ ー ジ
中 1 で 「x」「y」 と い う 文 字 を 使 い 始 め た 君 は ─
ヴ ィ エ ー タ (フ ラ ン ス、 1591)、 関 孝 和 (日 本、 1674)、 ラ イ プ ニ ッ ツ (ド イ ツ、 1693) と、 同 じ 系 譜 に 連 な っ て い る。
そ し て こ の 文 字 式 と い う 道 具 は、 や が て 高 校 で 学 ぶ 関 数・微 分 積 分・線 形 代 数 の す べ て の 基 礎 と な る。
350 年 前 の 関 孝 和 が 紙 に 書 い た 「天 元」 と、 君 が 今 ノ ー ト に 書 く 「x」 ─ そ れ ら は 同 じ 一 つ の 「未 知 を 見 つ け 出 す 道 具」 で あ る。
こ の 道 具 を 使 い こ な せ る か ど う か が、 中 学 数 学 ・ 高 校 数 学 ・ そ し て そ の 後 の 一 生 を 左 右 す る。
関 孝 和 の よ う に、 ヴ ィ エ ー タ の よ う に、 「文 字 を 自 由 に 操 る 力」 を 身 に つ け て ほ し い。
語句の意味
各見出し語をクリックすると、外部辞書で詳しい意味を調べられます。 ※ Wiktionary について
- 関 孝 和 (せ き た か か ず ・ せ き こ う わ) K 1642 頃 –1708。 江 戸 前 期 の 数 学 者。 和 算 史 上 最 大 の 天 才。 行 列 式・円 周 率・代 数 体 系 を 独 自 に 確 立。 本 サ イ ト sansu5/enseki-ritsu で 円 周 率 計 算 が、 sansu5/sangaku-bunka で 算 額 文 化 が 既 習。
- 点 竄 術 (て ん ざ ん じ ゅ つ) K 関 孝 和 が 確 立 し た 代 数 体 系。 「点 竄 (て ん ざ ん)」 と は 「点 (= 文 字 ・ 数) を 操 作 す る (= 竄、 移 す)」 の 意。 文 字 を 紙 上 に 書 い て 連 立 方 程 式 を 解 く 方 法。 ヨ ー ロ ッ パ の 代 数 (ヴ ィ エ ー タ 1591) に 相 当 す る、 日 本 独 自 の 代 数 学。
- 天 元 術 (て ん げ ん じ ゅ つ) K 中 国 の 元 代 (13 世 紀) に 発 達 し た 算 木 (さ ん ぎ) を 使 う 代 数 法。 関 孝 和 の 「点 竄 術」 の 原 型 と な っ た。 「天 元」 と い う 未 知 数 を 1 つ 取 る こ と か ら こ の 名 前。
- 算 木 (さ ん ぎ) K 短 い 木 の 棒。 並 べ 方 で 数 を 表 現 す る 日 本 ・ 中 国 古 来 の 計 算 道 具。 算 盤 (そ ろ ば ん) の 前 身。 関 孝 和 の 時 代 に は、 算 木 と 紙 を 使 っ た 計 算 が 一 般 的。
- 発 微 算 法 (は つ び さ ん ぽ う) K 関 孝 和 が 1674 年 (延 宝 2 年) に 出 版 し た 数 学 書。 全 1 巻。 点 竄 術 を 体 系 的 に 解 説 し た、 関 の 代 表 作。
- 行 列 式 (ぎ ょ う れ つ し き ・ determinant) K 連 立 方 程 式 を 解 く た め の 計 算 法。 関 孝 和 は こ れ を 1683 年 頃 に 発 見。 ヨ ー ロ ッ パ の ラ イ プ ニ ッ ツ (1693) よ り 約 10 年 早 い と さ れ る。 高 校 数 学 で 学 ぶ。
- ラ イ プ ニ ッ ツ (Gottfried Wilhelm Leibniz, 1646–1716) K ド イ ツ の 数 学 者・哲 学 者。 ニ ュ ー ト ン と 並 ぶ 微 積 分 学 の 創 始 者。 1693 年、 行 列 式 を ヨ ー ロ ッ パ で 初 め て 発 表。 関 孝 和 と 同 時 期 (関 1683、 ラ イ プ ニ ッ ツ 1693) に 同 じ 発 見 を し た 二 人 の 巨 人。
考えてみよう
- 関 孝 和 が ヨ ー ロ ッ パ の 数 学 と 接 触 し て い な か っ た に も か か わ ら ず、 同 じ 「代 数 学」 を 独 立 に 発 達 さ せ た こ と を、 ど う 思 い ま す か?
- 「点 竄 術」 と い う 言 葉 を、 自 分 の 言 葉 で 説 明 し て み ま し ょ う。
- 現 代 の 中 1 数 学 で 使 う 「x、 y」 と、 江 戸 時 代 の 「天 元」 ─ こ の 二 つ の 共 通 点 と 違 い は?
- 関 孝 和 が 行 列 式 を 1683 年、 ラ イ プ ニ ッ ツ が 1693 年。 同 じ 発 見 が 二 人 別 々 に な さ れ た こ と は、 数 学 に つ い て 何 を 物 語 っ て い ま す か?
指導要領との対応
このページは、文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)」数学 第1学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。
- 中1数学(A) — 文 字 と 式 ─ 文 字 式 の 計 算 法 則
※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。
指導案 教員向け・授業展開の例
中1 数 学 で 「文 字 式」 を 学 ん だ 直 後 に、 そ の 数 学 史 的 背 景 を 学 ぶ 教 材。 西 洋 と 東 洋 で 並 行 に 同 じ 代 数 学 が 発 達 し た こ と を 知 る こ と で、「数 学 は 世 界 共 通 の 言 葉」 を 体 感 す る。
指導目標
- 関 孝 和 の 業 績 を 知 る
- 点 竄 術 と 現 代 文 字 式 の つ な が り を 把 握 す る
- 数 学 の 普 遍 性 を 理 解 す る
授業の流れ
- 5分 「文 字 式」 の 復 習
- 15分 関 孝 和 と 点 竄 術 を 紹 介
- 15分 江 戸 と ヨ ー ロ ッ パ の 並 行 発 達 を 議 論
- 10分 点 竄 術 の 簡 単 な 問 題 を 解 い て み る
発問例・議論のポイント
- 鎖 国 の 日 本 で な ぜ 高 度 な 数 学 が 発 達 し た か?
- 「同 じ 真 理 に 独 立 に 到 達 す る」 こ と の 意 味
発展課題
- 算 額 (sansu5/sangaku-bunka) と の 連 続 読 み
- 関 孝 和 の 円 周 率 計 算 (sansu5/enseki-ritsu) と の 連 続
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出典・ライセンス
- 原文: 数学史 編集部「関 孝 和 と 点 竄 術 ─ 日 本 の 代 数 学」(1683年)
- 入力テキスト: 国立国会図書館 / 日本数学史学会 各種 資料 (底本:関 孝 和 (1642 頃 –1708) の 著 作『発 微 算 法』(1674)『括 要 算 法』(1683 没 後 出 版) を 中 心 と し た、 江 戸 和 算 の 代 数 体 系 「点 竄 術 (て ん ざ ん じ ゅ つ)」 の 入 門 教 材。)
- 原文の権利: パブリックドメイン
- 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors