算 額 文 化 ─ 神 社 に 数 学 を 奉 納 し た 江 戸 庶 民
中学校 数学 第1学年 古典 数 学 文 化 史和 算図 形 目安 25 分
学習のめあて
- 算 額 文 化 を 知 る
- 江 戸 期 数 学 の 普 及 を 理 解
- 数 学 と 文 化 ・ 信 仰 の 結 び つ き を 学 ぶ
本文
神 社 の 鳥 居 を く ぐ る と、 数 学 が 待 っ て い た
江 戸 期、 各 地 の 神 社・仏 閣 を 訪 れ る と、 ど こ で も 不 思 議 な 額 が 飾 ら れ て い た。 美 し い 円 と 三 角 形 の 図、 美 し い 漢 字 で 書 か れ た 文 章 ─ そ れ は 数 学 の 問 題 と 解 答 だ っ た。
こ の 額 を「算 額 (さ ん が く)」 と 呼 ぶ。 江 戸 期 か ら 明 治 期 に か け て、 武 士・農 民・商 人・ 子 ど も ま で が、 数 学 を 解 い て は 神 様 に 奉 納 し た の だ。
な ぜ 数 学 を 神 様 に 奉 納 す る の か
日 本 の 神 道 で は、 「優 れ た こ と を 達 成 し た 時、 神 様 に 感 謝 し て 奉 納 す る」 文 化 が あ る。 剣 の 達 人 が 神 社 に 刀 を 奉 納 す る よ う に、 数 学 が 解 け た 人 は そ の 喜 び を 木 札 に 描 い て 神 様 に 捧 げ た。
ま た、 神 社 は 公 共 の 場 所 で あ り、 多 く の 人 が 訪 れ る。 算 額 を 奉 納 す る こ と は、 「私 は こ れ を 解 き ま し た。 皆 さ ん、 検 証 し て く だ さ い」 と い う 発 表 の 場 で も あ っ た。
誰 が 算 額 を 奉 納 し た の か
算 額 を 奉 納 し た の は、 専 門 の 数 学 者 だ け で は な か っ た ─
- 武 士 ─ 関 流 ・ 最 上 流 等 の 学 派 に 所 属
- 農 民 ・ 商 人 ─ 寺 子 屋 で 算 術 を 学 ん だ 大 人 達
- 僧 侶 ─ 寺 院 教 育 で 数 学 を 学 ん だ 者
- 子 ど も ─ 寺 子 屋 で 数 学 を 学 ん だ 児 童 ・ 少 年
- 女 性 ─ 数 は 少 な い が、 算 額 を 奉 納 し た 女 性 も い た
こ れ は 世 界 史 的 に 異 例 で あ る。 同 時 代 の ヨ ー ロ ッ パ で は、 数 学 は 大 学 ・ 王 立 学 会 等 の エ リ ー ト の も の だ っ た。 江 戸 期 の 日 本 で は、 数 学 が 庶 民 の 文 化 だ っ た。
典 型 的 な 算 額 問 題 ─ 円 と 三 角 形
算 額 で 最 も 人 気 の 問 題 タ イ プ は、 「円 内 に 円 を 詰 め る」 (Circle Packing) だ っ た。
例 題 ─ 「半 径 1 の 大 円 の 中 に、 直 径 が 等 し い 3 つ の 円 を 互 い に 接 す る よ う に 詰 め る。 小 円 の 半 径 を 求 め よ」。
解 答 ─ 中 心 同 士 を 結 ぶ と 正 三 角 形 が で き、 三 平 方 を 使 う と 小 円 の 半 径 = (2 √3 − 3) / 3 ≈ 0.155。 美 し い 図 と 共 に 神 様 に 奉 納。
遺 題 継 承 ─ 数 学 が 進 化 す る 動 力
和 算 の 慣 習 で「遺 題 継 承 (い だ い け い し ょ う)」 と い う も の が あ っ た。 本 の 末 尾 に「未 解 決 問 題」 を 残 し て お き、 次 の 著 者 が そ れ を 解 い て 新 し い 本 を 出 す。
こ の 仕 組 み で、 関 孝 和 →『発 微 算 法』 → 建 部 賢 弘 → … と 数 学 が 集 団 で 発 達 し た。 現 代 の 学 術 論 文 ・ オ ー プ ン サ イ エ ン ス と 似 た 仕 組 み が、 江 戸 期 に 既 に あ っ た の だ。
現 在 残 る 約 800 面 の 算 額
明 治 期 に 西 洋 数 学 が 導 入 さ れ、 和 算・算 額 の 文 化 は 急 速 に 衰 退 し た。 し か し、 全 国 の 神 社・仏 閣 に 約 800 面 の 算 額 が 残 さ れ、 デ ジ タ ル ア ー カ イ ブ さ れ て い る。
特 に 算 額 が 多 い 県 ─ 福 島・宮 城・岩 手・福 井・三 重・奈 良 等。 君 の 住 む 地 域 の 神 社 に も、 算 額 が 残 っ て い る か も し れ な い。 一 度 探 し て み よ う。
結 び ─ 数 学 を 楽 し む 心
「数 学 は 難 し い、 嫌 い」 と 言 う 君 へ ─ 江 戸 期 の 農 民・商 人・子 ど も た ち は、 数 学 を 解 い て 神 様 に 奉 納 す る ほ ど 楽 し ん で い た。 数 学 は、 元 来 楽 し い も の だ っ た の だ。
教 科 書 の 問 題 を 解 く 時、 「神 社 に 奉 納 す る つ も り で、 美 し く 解 こ う」 と 思 う と、 数 学 が 急 に 別 の 顔 を 見 せ て く れ る。
語句の意味
各見出し語をクリックすると、外部辞書で詳しい意味を調べられます。 ※ Wiktionary について
- 算 額 (さ ん が く) K 江 戸 期 か ら 明 治 期 に 流 行 し た、 神 社・仏 閣 に 奉 納 さ れ た 数 学 の 額。 美 し い 図 と 共 に 問 題・解 答 を 木 札 に 描 く。 「数 学 が 解 け た こ と を 神 仏 に 感 謝 し、 公 開 す る」 信 仰 と 学 問 の 結 合。
- 和 算 (わ さ ん) K 江 戸 期 (17–19 世 紀) に 発 達 し た 日 本 独 自 の 数 学。 西 洋 数 学 と は 独 立 し て、 微 分 ・ 積 分 ・ 行 列 ・ 円 周 率 計 算 等 を 発 達。 関 孝 和・建 部 賢 弘 ら が 代 表 (本 サ イ ト chugakusugaku1 既 出)。
- 関 流 (せ き り ゅ う) K 関 孝 和 (1640?–1708) が 創 始 し、 弟 子 の 建 部 賢 弘 ・ 山 路 主 住 ら が 受 け 継 い だ 和 算 の 学 派。 江 戸 期 に 全 国 に 広 が り、 多 く の 算 額 を 残 し た。
- 遺 題 継 承 (い だ い け い し ょ う) K 江 戸 期 の 和 算 書 の 慣 習。 著 者 が 本 の 末 尾 に 未 解 決 問 題 (遺 題) を 残 し、 次 の 著 者 が そ れ を 解 い て 新 し い 本 を 出 す。 数 学 が 集 団 で 発 達 す る 動 力 と な っ た。
- 一 関 八 幡 神 社 算 額 (い ち の せ き は ち ま ん じ ん じ ゃ さ ん が く) K 岩 手 県 一 関 市 ・ 一 関 八 幡 神 社 に 奉 納 さ れ た 安 政 4 年 (1857) の 算 額。 現 存 す る 最 大 級 (約 2 m×3 m)。 三 関 (一 関 ・ 二 関 ・ 三 関) の 算 額 文 化 で 有 名。
- 円 内 に 円 を 詰 め る 問 題 (Sangaku Circle Packing) K 算 額 で 最 も 人 気 だ っ た 問 題 タ イ プ。 大 円 の 中 に 小 円 を ど う 配 置 す る か。 美 し い 図 と 共 に 出 題 さ れ、 三 平 方 の 定 理・代 数 を 駆 使 し て 解 か れ た。 現 代 数 学 で も「円 充 填 問 題」 と し て 研 究 さ れ る。
考えてみよう
- 「数 学 を 神 様 に 奉 納 す る」 と い う 江 戸 期 の 発 想 を、 君 は ど う 感 じ ま す か?
- 現 代、 君 が 数 学 を「解 け た 」 喜 び を 表 現 す る な ら、 ど ん な 方 法 が あ る で し ょ う か?
- 江 戸 庶 民 が 数 学 を 楽 し む 文 化 が 広 ま っ た 理 由 を 想 像 し て み ま し ょ う。
- 君 の 住 む 地 域 の 神 社・仏 閣 に、 算 額 が 残 っ て い な い か 調 べ て み ま し ょ う。
指導要領との対応
このページは、文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)」数学 第1学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。
- 中1数学 — 数 学 と 文 化 ・ 社 会 の 関 わ り を 理 解 す る
※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。
指導案 教員向け・授業展開の例
中1 数 学 の 導 入 教 材 と し て、 江 戸 期 の 数 学 文 化「算 額」 を 紹 介。 数 学 が 生 活・信 仰・遊 び と 結 び つ い て い た こ と を 知 る。
指導目標
- 算 額 文 化 を 知 る
- 数 学 と 文 化 の 結 び つ き を 理 解
- 数 学 を「身 近 な 楽 し み」 と し て 体 験
授業の流れ
- 10分 算 額 写 真 を 見 せ る・文 化 を 紹 介
- 15分 代 表 的 算 額 問 題 を 一 緒 に 解 く
- 10分 関 流・建 部 等 の 系 譜 を 整 理
- 10分 自 分 で 算 額 風 図 を 描 い て み る
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出典・ライセンス
- 原文: 江戸庶民 (匿名・複数)「算 額 文 化 ─ 神 社 に 数 学 を 奉 納 し た 江 戸 庶 民」(1683年)
- 入力テキスト: 本サイト編集解説 / 全国算額デジタルアーカイブ (底本:江 戸 期 か ら 明 治 期 に か け て 流 行 し た「算 額」(数 学 問 題 を 額 に し て 神 社・仏 閣 に 奉 納 す る 文 化) を、 中 1 数 学 の 導 入 教 材 と し て 紹 介。 武 士・庶 民・農 民 ・ 子 ど も ま で が 数 学 を 楽 し ん だ 江 戸 期 の 数 学 文 化。)
- 原文の権利: パブリックドメイン
- 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors