落葉松 (からまつ) — 北原白秋 の表紙イラスト

落葉松 (からまつ) — 北原白秋

中学校 国語 第3学年 近代詩B 読むこと自然詩 目安 20 分

作者
北原白秋 (きたはら はくしゅう)(1885–1942)
原作発表
1921 年(大正10年 (1921))
出典
詩集『水墨集』所収 (大正12年・1923刊)
底本:北原白秋「落葉松 (からまつ)」(『水墨集』 ア ル ス、大正12年・1923 年 刊 所収。 元 は 大正10年・1921 年 に 雑誌掲載)。 信州・軽井沢 の 落葉松林 を 詠 ん だ、 北原白秋 の 代 表 的 自 然 詩。

学習のめあて

  • 北 原 白 秋 の 自 然 詩 を 原 文 で 読 む
  • リ フ レ イ ン (反 復) の 効 果 を 体 感 す る
  • 信 州 ・ 軽 井 沢 の 落 葉 松 林 の 静 か な 美 を 想 像 す る

本文

落 葉 松 (北 原 白 秋)

一いち
からまつの林はやしを過すぎて、
からまつをしみじみと見みき。
からまつはさびしかりけり。
たびゆくはさびしかりけり。

二に
からまつの林はやしを出いでて、
からまつの林はやしに入いりぬ。
からまつの林はやしに入いりて、
また細ほそく道みちはつづけり。

三さん
からまつの林はやしの奥おくも、
わが通かよる道みちはありけり。
霧雨きりさめのかかる道みちなり。
山風やまかぜのかよふ道みちなり。

四し
からまつの林はやしの道みちは、
われのみか、ひともかよひぬ。
ほそぼそと通かよふ道みちなり。
さびさびといそぐ道みちなり。

五ご
からまつの林はやしを過すぎて、
ゆゑしらず歩あゆみひそめつ。
からまつはさびしかりけり、
からまつとささやきにけり。

六ろく
からまつの林はやしを出いでて、
浅間嶺あさまねにけぶり立たつ見みつ。
からまつのまたそのうへに、
たびゆくはさびしかりけり。

七しち
からまつの林はやしの雨あめは、
さびしけどいよよしづけし。
かんこ鳥どり鳴なけるのみなる。
からまつの濡ぬるるのみなる。

八はち
世よの中なかよ、あはれなりけり。
常つねなけどうれしかりけり。
山川やまかはに山川やまかはの音おと、
からまつにからまつのかぜ。

現 代 語 へ の 案 内

詩 は ほ ぼ 古 い 仮 名 遣 い (歴 史 的 仮 名 遣 い) で 書 か れ て い る。
「見 き」(見 た)、「さ び し か り け り」(さ び し か っ た)、「け ぶ り 立 つ 見 つ」(煙 が 立 つ の を 見 た) ─ こ う し た 古 風 な 表 現 が、 静 か な 林 の 雰 囲 気 を 醸 す。

解 説 ─ 「し み じ み と 見 る」

「落 葉 松」 全 8 連 を 通 し て、 詩 人 は 「ひ た す ら 落 葉 松 を 見 て、 落 葉 松 と と も に 歩 く」 と い う 経 験 を 描 く。

詩 に は、 派 手 な 出 来 事 は 何 も 起 こ ら な い:

  • 第 1 連 ─ 林 を 過 ぎ、 落 葉 松 を 見 る
  • 第 2 連 ─ 出 で、 入 り、 ま た 細 い 道 が 続 く
  • 第 3 連 ─ 林 の 奥 に も 道 が あ る
  • 第 4 連 ─ 自 分 だ け で な く、 他 の 人 も 通 る 細 い 道
  • 第 5 連 ─ 落 葉 松 と さ さ や く
  • 第 6 連 ─ 浅 間 山 の 噴 煙 を 見 上 げ る
  • 第 7 連 ─ 雨 の 中、 か ん こ 鳥 が 鳴 く
  • 第 8 連 ─ 世 の 中 と 自 然 へ の 静 か な 詠 嘆

こ の 「何 も 起 こ ら な い こ と」 こ そ が、 こ の 詩 の 本 質 で あ る。
落 葉 松 林 と 詩 人 の 心 が、 静 か に 共 鳴 し、 そ こ に 「し み じ み と」 と い う 感 情 が 生 ま れ る ─ そ れ を 描 い た 詩 で あ る。

リ フ レ イ ン の 美

詩 の 各 連 で、 「か ら ま つ」 と い う 言 葉 が、 ほ ぼ 毎 行 に 出 て く る。

普 通、 詩 で は 同 じ 言 葉 を 繰 り 返 し 使 う こ と は 避 け る べ き と さ れ る。
だ が 白 秋 は、 あ え て こ の リ フ レ イ ン を 大 胆 に 使 っ た。

そ し て、 そ の 効 果 は 絶 大 で あ る。
「か ら ま つ」 と い う 言 葉 が 繰 り 返 さ れ る た び に、 読 者 の 心 に 落 葉 松 の イ メ ー ジ が 重 な っ て い く。
や が て、 詩 全 体 が 一 つ の 落 葉 松 林 と な っ て、 読 者 を そ の 中 へ と 招 き 入 れ る。

軽 井 沢 と 浅 間 山

詩 の 第 6 連 に 「浅 間 嶺 に け ぶ り 立 つ 見 つ」 と あ る。
浅 間 山 (あ さ ま や ま) は、 群 馬・長 野 県 境 の 活 火 山。 軽 井 沢 か ら 見 上 げ る と、 と き ど き 噴 煙 が 立 ち 上 る の が 見 え る。

こ の 描 写 か ら、 詩 の 舞 台 は 信 州・軽 井 沢 の 落 葉 松 林 で あ る こ と が わ か る。

軽 井 沢 は、 明 治 以 来、 多 く の 文 学 者 の 創 作 の 場 と な っ た:

  • 北 原 白 秋 ─ 「落 葉 松」 (1921)
  • 室 生 犀 星 ─ 軽 井 沢 を 第 二 の 故 郷 と し て 多 く の 作 品
  • 堀 辰 雄 ─ 「風 立 ち ぬ」 (1936–1938)
  • 立 原 道 造 ─ ソ ネ ッ ト 「の ち の お も ひ に」 な ど (本 サ イ ト chugaku3)
  • 川 端 康 成 ─ 「雪 国」 構 想 ・ 別 荘 滞 在

軽 井 沢 の 高 原 の 落 葉 松 林 は、 100 年 以 上 に わ た り、 日 本 文 学 の 一 つ の 「聖 地」 と な っ て き た。

「世 の 中 よ、 あ は れ な り け り」

詩 の 最 後 ─ 第 8 連 ─ で、 詩 人 は 突 然 「世 の 中」 へ の 思 い を 口 に す る。

世 の 中 よ、 あ は れ な り け り。
常 な け ど う れ し か り け り。
山 川 に 山 川 の 音、
か ら ま つ に か ら ま つ の 風。

「世 の 中 は あ わ れ で あ る。 だ が 永 遠 で は な い (= 移 ろ う) こ と も 嬉 し い こ と だ。 山 川 に は 山 川 の 音 が あ り、 落 葉 松 に は 落 葉 松 の 風 が あ る」

こ こ で 詩 は、 個 別 の 落 葉 松 林 か ら、 万 物 の 「あ る が ま ま」 の 美 し さ へ と 視 野 を 広 げ る。

落 葉 松 に 吹 く 風 は、 落 葉 松 だ け の 風 で あ る。
山 川 に 響 く 音 は、 山 川 だ け の 音 で あ る。
そ し て、 そ れ ら す べ て が「あ は れ (し み じ み と し た 美 し さ)」 を 持 つ。

こ れ こ そ が、 北 原 白 秋 が 「落 葉 松」 を 通 し て 私 た ち に 伝 え た い、 自 然 へ の 眼 差 し で あ る。

声 に 出 し て 読 ん で み よ う

「落 葉 松」 は、 黙 読 で は な く、 ぜ ひ 声 に 出 し て 読 ん で ほ し い。

「か ら ま つ の 林 を 過 ぎ て、 か ら ま つ を し み じ み と 見 き」 ─ こ の 一 行 を 声 に 出 し た と き、 君 は 信 州 の 高 原 の、 静 か な 落 葉 松 林 の 中 に 立 っ て い る。
百 年 前 の 白 秋 と、 同 じ 風 景 を、 同 じ 心 で、 「し み じ み と」 見 て い る の で あ る。

語句の意味

各見出し語をクリックすると、外部辞書で詳しい意味を調べられます。 ※ Wiktionary について

  • 北 原 白 秋 (き た は ら は く し ゅ う) K 1885–1942。 福 岡 県 柳 川 出 身 の 詩 人・歌 人・童 謡 作 家。 「邪 宗 門」「思 ひ 出」「桐 の 花」「水 墨 集」 な ど 多 数。 童 謡 「赤 い 鳥 小 鳥」「ペ チ カ」「か ら た ち の 花」 な ど (本 サ イ ト kokugo2 で 既 習) も 有 名。
  • 落 葉 松 (か ら ま つ) K マ ツ 科 の 落 葉 高 木。 日 本 で 唯 一 の 落 葉 す る 針 葉 樹。 信 州 ・ 軽 井 沢 ・ 富 士 山 麓 な ど 高 原 に 多 い。 春 に 柔 ら か い 緑 を 吹 き、 秋 に 鮮 や か な 黄 色 に 紅 葉 し、 冬 に 落 葉 す る。
  • 水 墨 集 (す い ぼ く し ゅ う) K 北 原 白 秋 の 詩 集。 1923 年 (大 正 12 年)、 ア ル ス 社 刊。 ロ マ ン 派 か ら 脱 し、 抑 制 さ れ た 自 然 描 写 へ と 移 行 し た 白 秋 の 中 期 代 表 作。
  • 軽 井 沢 (か る い ざ わ) K 長 野 県 北 佐 久 郡。 明 治 以 来、 外 国 人 宣 教 師 や 文 学 者 が 集 う 高 原 リ ゾ ー ト。 北 原 白 秋・室 生 犀 星・川 端 康 成・堀 辰 雄・立 原 道 造 な ど、 多 く の 作 家 が 通 っ た。
  • し み じ み と K 心 か ら、 深 く 感 じ 入 っ て。 詩 全 体 を 貫 く 重 要 な 副 詞。
  • 旅 ゆ く (た び ゆ く) K 「旅 を 続 け て 行 く」 の 古 風 な 表 現。
  • 行 き 過 ぎ し (ゆ き す ぎ し) K 「行 き 過 ぎ た」 の 古 い 形 (連 体 形)。
  • 8 連 (は ち れ ん) K 詩 の 連 (ま と ま り) の 数。 本 詩 は 8 連 か ら 成 り、 各 連 が 「か ら ま つ」 で 始 ま っ て 「か ら ま つ」 で 結 ば れ る 構 造。

考えてみよう

  1. 詩 を 声 に 出 し て、 8 連 を ゆ っ く り 読 ん で み ま し ょ う。 「か ら ま つ」 と い う 言 葉 が 何 回 出 て き ま す か?
  2. 「か ら ま つ の 林 を 過 ぎ て、 か ら ま つ を し み じ み と 見 き」 ─ こ の 反 復 (リ フ レ イ ン) の 効 果 は 何 で し ょ う か?
  3. 落 葉 松 (か ら ま つ) と い う 木 を 知 っ て い ま す か? ど ん な 木 か 調 べ て み ま し ょ う。 こ の 詩 の 季 節 は い つ で し ょ う か?
  4. 白 秋 は な ぜ 「し み じ み と」 と い う 言 葉 を 何 度 も 使 っ た の で し ょ う か?
指導案 教員向け・授業展開の例

中3 国 語 で 北 原 白 秋 の 自 然 詩 を 読 む。 8 連 と い う 長 さ だ が、 各 連 が 同 じ 構 造 で リ フ レ イ ン し て い る た め、 読 み や す い。 信 州 ・ 軽 井 沢 の 高 原 の 静 か な 風 景 を 想 像 さ せ る こ と が 主 眼。

授業時数
1時限 (45分)
準備
詩 全 文 (青 空 文 庫)、信 州 ・ 軽 井 沢 の 落 葉 松 林 の 写 真、北 原 白 秋 の 略 伝

指導目標

  • 白 秋 の 自 然 詩 の 抑 制 さ れ た 美 を 体 感 す る
  • リ フ レ イ ン の 効 果 を 理 解 す る
  • 落 葉 松 と い う 木 を 知 る

授業の流れ

  1. 5分 落 葉 松 の 写 真・動 画 を 見 る
  2. 15分 詩 を 全 員 で 2 回 音 読
  3. 15分 「し み じ み と」 の 効 果 を 議 論
  4. 10分 自 分 の 「し み じ み と 見 た」 風 景 を 思 い 出 し て 書 く

発問例・議論のポイント

  • 「林 を 過 ぎ て、 林 を 見 る」 と い う 体 験 は ど ん な も の か?
  • 「し み じ み と」 と い う 日 本 語 を、 ど う 説 明 で き る か?

発展課題

  • 白 秋 の 童 謡 「か ら た ち の 花」 (kokugo2 既 習) と 比 較
  • 軽 井 沢 を 訪 れ る

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出典・ライセンス

  • 原文: 北原白秋 (きたはら はくしゅう)「落葉松 (からまつ) — 北原白秋」(1921年)
  • 入力テキスト: 詩集『水墨集』所収 (大正12年・1923刊) (底本:北原白秋「落葉松 (からまつ)」(『水墨集』 ア ル ス、大正12年・1923 年 刊 所収。 元 は 大正10年・1921 年 に 雑誌掲載)。 信州・軽井沢 の 落葉松林 を 詠 ん だ、 北原白秋 の 代 表 的 自 然 詩。)
  • 原文の権利: パブリックドメイン
  • 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors