雪 舟『山 水 長 巻』 ─ 室 町 水 墨 画 の 頂 点
中学校 美術 第2学年 古典 日 本 美 術水 墨 画美 術 史 目安 25 分
学習のめあて
- 水 墨 画 と は 何 か を 知 る
- 雪 舟 の 業 績 を 理 解 す る
- 山 水 画 の 視 線 移 動 を 体 験
本文
禅 僧 雪 舟 ─ 中 国 で 学 び、 日 本 で 完 成 さ せ た 男
1420 年、 備 中 国 赤 浜 (現 岡 山 県 総 社 市)。 後 に 雪 舟 と 呼 ば れ る 少 年 が 生 ま れ た。 幼 い 頃、 京 都 相 国 寺 (し ょ う こ く じ) に 入 り、 禅 僧 と し て 修 行 を 始 め る。
有 名 な 逸 話 が あ る。 絵 ば か り 描 い て 修 行 を し な い 少 年 雪 舟 を、 師 が 柱 に 縛 り 付 け た。 夕 方、 戻 っ て き た 師 は 驚 く ─ 雪 舟 の 足 元 に、 涙 で 描 い た 一 匹 の 鼠 が、 今 に も 動 き 出 し そ う に 見 え た の だ。
明 へ の 旅 ─ 47 歳 で 中 国 へ
応 仁 元 年 (1467)、 47 歳 の 雪 舟 は 遣 明 船 で 中 国 (明) へ 渡 る。 北 京・蘇 州 で 山 水 画 を 学 ぶ こ と 2 年 間。 中 国 の 大 自 然 と、 1000 年 以 上 の 山 水 画 の 伝 統 に 触 れ た。
帰 国 し た 雪 舟 は、 中 国 で 学 ん だ 技 法 を、 日 本 の 山 ・ 川 ・ 海 に 応 用 す る。 単 な る 模 倣 で は な く、 日 本 の 自 然 と 美 学 に 融 合 さ せ た 独 自 の 水 墨 画 を 確 立 し た。
『山 水 長 巻』 ─ 16 m の 旅
文 明 18 年 (1486)、 67 歳 の 雪 舟 が 大 内 氏 の 為 に 描 い た 『山 水 長 巻』 (正 式 名 ─ 『四 季 山 水 図 巻』)。 長 さ 約 16 m に も 及 ぶ 紙 巻 物 に、 春 夏 秋 冬 の 山 水 を 連 続 で 描 い た。
鑑 賞 法 は 特 殊 だ。 巻 物 を 少 し ず つ 開 き な が ら、 視 線 を 右 か ら 左 へ 移 動 さ せ て 見 る。 春 の 桜、 夏 の 滝、 秋 の 紅 葉、 冬 の 雪 ─ 一 つ の 絵 の 中 で 四 季 が 流 れ る。 時 間 と 空 間 を 同 時 に 体 験 す る 革 命 的 な 構 図。
墨 の 五 色 ─ 黒 一 色 で 世 界 を 描 く
水 墨 画 は 墨 一 色 (黒) で 描 く。 し か し、 雪 舟 の 絵 を 見 る と 「五 色」 が 見 え る ─ 濃 (の う ・ 濃 い 黒)、 淡 (た ん ・ 薄 い 灰 色)、 渇 (か つ ・ 乾 い た 墨)、 湿 (し つ ・ 潤 ん だ 墨)、 焦 (し ょ う ・ 焦 げ た よ う な 黒)。
水 と 墨 の 比 率、 紙 の 質、 筆 の 速 度 ─ 全 て を 制 御 し て、 一 色 で 万 色 を 表 現 す る。 「色 が な い か ら こ そ、 全 て の 色 が 見 え る」 ─ 禅 の 美 学 で あ る。
室 町 美 術 ─ 禅 と 結 び つ い た 文 化
室 町 期 (1336–1573) は、 禅 宗 が 武 士 ・ 文 化 人 に 広 が り、 茶 道 ・ 庭 園 ・ 水 墨 画 が 発 達 し た。 龍 安 寺 の 石 庭、 銀 閣 寺、 千 利 休 の 茶 室 ─ 全 て 「シ ン プ ル で 静 か な 美」 を 追 求 し た。
雪 舟 の 水 墨 画 は、 こ の 室 町 美 学 の 頂 点 に 立 つ。 江 戸 期 の 派 手 な 浮 世 絵 と は 対 照 的 だ が、 日 本 美 術 の 両 極 を 知 る た め に、 両 方 を 体 験 し て 欲 し い。
結 び ─ 静 か な 美 を 知 る
派 手 さ ・ 色 鮮 や か さ だ け が 美 し さ で は な い。 墨 一 色 ・ 静 か な 山 水 に も、 深 い 美 が あ る。 雪 舟 が 教 え る の は、 「見 え な い も の を 見 る 目」 で あ る。
紙 と 墨 を 用 意 し て、 君 も 一 度 水 墨 画 を 描 い て み よ う。 黒 一 色 で 風 景 を 表 現 す る 難 し さ と、 そ こ か ら 立 ち 上 が る 不 思 議 な 美 を 体 験 で き る。
語句の意味
各見出し語をクリックすると、外部辞書で詳しい意味を調べられます。 ※ Wiktionary について
- 雪 舟 等 楊 (せ っ し ゅ う と う よ う) K 1420–1506。 備 中 国 赤 浜 (現 岡 山 県 総 社 市) 生 ま れ の 禅 僧・画 家。 京 都 相 国 寺 で 修 行 後、 周 防 (現 山 口) の 大 内 氏 に 仕 え る。 1467 年 (応 仁 元 年) に 中 国 (明) へ 渡 り、 2 年 間 修 行。 帰 国 後 日 本 水 墨 画 を 確 立。
- 水 墨 画 (す い ぼ く が) K 墨 一 色 で 描 く 絵 画 (彩 色 し な い)。 中 国 唐 ・ 宋 時 代 (8–12 世 紀) に 発 達。 日 本 へ は 鎌 倉 ・ 室 町 期 に 禅 と 共 に 伝 わ る。 「墨 の 五 色」 (濃 ・ 淡 ・ 渇 ・ 湿 ・ 焦) で 全 て の 色 を 表 現。
- 山 水 画 (さ ん す い が) K 山 ・ 水 ・ 樹 ・ 雲 を 描 く 中 国 起 源 の 絵 画 ジ ャ ン ル。 単 な る 風 景 で は な く、 「宇 宙 ・ 自 然 の 真 理」 を 表 現 す る も の と さ れ る。 視 線 を 移 動 さ せ な が ら 鑑 賞 す る (移 動 視 点)。
- 山 水 長 巻 (さ ん す い ち ょ う か ん) K 雪 舟 67 歳 (1486 年) の 大 作。 正 式 名『四 季 山 水 図 巻』。 長 さ 16 m 弱 の 紙 巻 物 に、 春 夏 秋 冬 の 山 水 を 連 続 し て 描 く。 国 宝。 毛 利 博 物 館 (山 口 県 防 府 市) 所 蔵。
- 禅 (ぜ ん) K 仏 教 の 一 派 (禅 宗)。 「座 禅」 と 「日 常 の 修 行」 を 通 じ て 悟 り を 目 指 す。 鎌 倉 ・ 室 町 期 に 武 士 ・ 文 化 人 に 広 ま り、 茶 道 ・ 庭 園 ・ 水 墨 画 と 結 び つ い た。 雪 舟 は 相 国 寺 (京 都) の 禅 僧。
- 明 (み ん) K 中 国 の 王 朝 (1368–1644)。 1467 年、 雪 舟 は 遣 明 船 で 明 へ 渡 り、 北 京 ・ 蘇 州 で 山 水 画 を 学 ぶ。 帰 国 後、 中 国 の 技 法 を 日 本 の 風 景 と 美 学 に 融 合 さ せ た。
考えてみよう
- 16 m の 絵 を 「視 線 を 動 か し な が ら」 見 る こ と の 意 味 を 考 え ま し ょ う。
- 墨 一 色 (黒 だ け) で、 ど の よ う に 色 鮮 や か さ を 表 現 で き る で し ょ う か?
- 雪 舟 が 中 国 で 学 ん だ 技 法 を、 日 本 の 自 然 に ど う 応 用 し た か 考 え ま し ょ う。
- 現 代 の 動 画 ・ 漫 画 と 雪 舟 の 「長 巻」 は、 ど ち ら も 時 間 と 共 に 視 線 が 移 る 表 現 で す。 共 通 点 は?
指導要領との対応
このページは、文部科学省「中学校学習指導要領(平成29年告示)」美術 第2学年の 以下の指導事項を意識して編集しています。
- 中学美術 — 日 本 ・ 諸 外 国 の 美 術 文 化 と そ の 表 現 を 理 解 す る
※ 文部科学省告示の本文ではなく、編集者による要旨の言い換えです。 正確な指導事項は文部科学省の公式資料を参照してください。
指導案 教員向け・授業展開の例
中2 美 術 (新 collection) で、 室 町 水 墨 画 を 鑑 賞 す る。 浮 世 絵 (江 戸 期) と 比 較 し て、 日 本 美 術 の 多 様 な 表 現 を 学 ぶ。
指導目標
- 水 墨 画 の 美 を 知 る
- 山 水 画 と 移 動 視 点 を 体 験
- 雪 舟 と 室 町 文 化 を 理 解
授業の流れ
- 10分 雪 舟 の 生 涯 を 紹 介
- 15分 『山 水 長 巻』 を 視 線 移 動 で 鑑 賞
- 10分 水 墨 画 の 技 法 を 解 説 (墨 の 五 色)
- 10分 自 分 で 墨 画 を ス ケ ッ チ
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出典・ライセンス
- 原文: 雪舟等楊 (せっしゅう とうよう)「雪 舟『山 水 長 巻』 ─ 室 町 水 墨 画 の 頂 点」(1486年)
- 入力テキスト: 毛利博物館蔵 (国宝) / 東京国立博物館 (底本:雪 舟『山 水 長 巻』(文 明 18 年・1486)。 正 式 名『四 季 山 水 図 巻』。 長 さ 約 16 m の 横 長 の 紙 に、 春 夏 秋 冬 の 山 水 を 描 い た 大 作。 国 宝。 日 本 水 墨 画 の 最 高 傑 作 と さ れ る。)
- 原文の権利: パブリックドメイン
- 編集・語注・発問・解説: CC BY 4.0 © project_procopios contributors